アメリカの自動車整備業で見たこと

前書き

戸田市は人口10万ちょっとだが、中小の自動車整備業はたくさんあるまちである。

正規の自動車整備業は90以上、板金業をいれれば120以上とも言われている。

90もの企業があれば、いろいろな社長がいるが、毎年のようにアメリカに渡り、そこで自動車整備業界を詳しく見て来る人がいて、その彼の話には少々驚くべき内容があるので、ここに紹介することにした。

日本とアメリカを比べると、手先の器用さとか表面を削ったり切ったりという精密さは日本の方が上であるというイメージがある。戸田市内のある電子部品企業の社長に聞いた話だが、コンピュータのある精密部品加工には東京・大田区の某中小企業の作る部品を使わないと出来ないという。この話は、以前見たテレビ番組の内容とも一致する。

しかも、自動車といえば、日本の技術は世界でトップクラス、故障も少なく、品質でアメリカの自動車に負けていないのだから、当然自動車整備業界も日本の技術の方が優れている、と、私も思っていた。

しかし、この”アメリカ視察社長”の話では、アメリカの自動車整備業界は日本より進んでしまっている、というのである。以下は、その社長の話である。

手先の器用さは日本の方が上だろう。しかし、今はいろんなものが進歩しているので、手先の器用さが決定的な要素では無くなってきている。

日本と一番違うのは、自動車整備業経営者の発想だ。

第一に、どうやって自分の工場の特徴をうち出すか、という点の発想だ。日本より競争が激しいので、お客さんへの気配り、気遣い、自社のアピールが強烈だった。たとえば、一棟に4社の整備工場が入っているのを見学したが、その一社の社長が、隣の工場を指さして「隣はあんなに在庫を寝かしている。うちは管理がよいから在庫が少なく、その分料金を安くできる」とお客さんに説明しているのを見、聞いた。

第2に、アメリカでは車検が無いので、車は故障してから整備工場に来る。従って修理単価が高くなる。荒利も産業平均に比べ低くはないとの認識があり、誇りを持って仕事をしている。

第3に、公害防止・環境保護に対する意識が高い。自分たちが守るんだという気持ちを持っている。

そのほかの目立つ相違として、アメリカでは時間単位の費用(人件費の単位)を明示することが整備工場に義務づけられている。「この工場の人件費は1時間あたりいくら」という表示である。また、最低単位の料金が決められていてそれ以下の値引きはしない。

環境のことも徹底している。どの工場も床がきれいなので質問したところ、オイルなどを床にこぼすのは州の条例で禁止されている → 床に液体をこぼさない → 汚れない。ということらしい。オイルをこぼすと、蒸発したオイルが大気汚染をするから禁止、ということだ。例えてみれば、自分の家の床でオイルをこぼすのも、大気汚染の観点から禁止というようなものだ。ちなみに車のガソリン注入口も径が小さくてノズルがぴったりと収まり、さらに内側に自動弁(内蓋)がついていて、ガソリン注入時の蒸発→大気汚染を防止するようになっている。

自分の見た限り、工場内での働きぶりはアメリカの方が上だった。キビキビしているという点で仕事の密度が高い。

終身雇用ではなく、失業率も高いので、働き手は自分の評価、ボスの目が恐いのだろう。

まちでは、早朝から職を求める人々が道路にたむろしているが、ヒスパニック系などの人たちの技術力も決して低くはなかった。

技術的には、日本との大きな違いは燃料噴射装置・制御用マイコンの修理が出来るかどうかが大きな違いになっている。日本ではそれを修理できる整備工場は非常に少なく、ほとんどが部品交換で対応しているが、アメリカでは、それも修理するのが当たり前になっている。アメリカの自動車メーカーは整備工場に対し修理に必要な技術情報を熱心に提供・公開している。メーカーとしては、自社の車をきちんと修理できる整備工場が増えた方が自社に利益になるという考えもあるだろうが、いろいろ聞いていると、政府も、業界も、消費者も、修理という作業を大事にしているという事があるようだ。

確かに、部品交換なら簡単だが、反面ごみが増え、環境保護には逆行してしまう。

日本では、だいぶ変わってはいるが、まだメーカーがそういう情報を熱心に公開しているとは言えない。

次世代エンジンといわれる燃料電池・水素ガスについても研究が進んでおり、我々も今から勉強しておく必要を感じた。

総じてアメリカの自動車整備業界は、「業界の発展」を非常に重要視していると思われた。国内の同業他社との競争も激しいが、「世界との競争」に勝つためには競争相手を含む業界内であっても協力するという考えが強いようだ。

「和」を重視するのは日本であり、アメリカは競争社会だから、業界の協調がうまく行くのは日本の方だと思っていたが、「世界との競争優位」という実利のためなら(?)業界が協力する、ということらしい。

自分は元々アメリカが好きなわけではなかったが、実際に行って工場を見、話を聞いている内に頭が下がる思いがした。今は整備業界の若手を集めて勉強会をやりたいと企画を考えているところだ。

感想 以上がアメリカ視察社長の話の概要です。単身、広いアメリカへ渡ってのリポートなので、これがアメリカ整備業界のすべてだ、というものではありません。一つの参考としてご理解下さい。しかし、このレポートの中の、競争社会だが、外部との競争に備えるには実利的な「和」を重視し、「業界全体の発展・利益」を重視する考えというものはさすが世界の大国だと思わせます。業界の和といってもヤミカルテルみたいに内輪でうまいことをやってるだけでは、外敵がやってきたときにみんなやられてしまうのがオチではないか、競争はしながら全体の発展には協力するというのが基本にあるのなら、アメリカはやはり手強い国なのだな、とかいろいろ考えさせられました。また、「業界全体の発展・利益」についてはアメリカの全く別の業界の例でも聞いたことがあります。

アメリカという国は全部をまねするかどうかは別として、ビジネスの勉強には実に奥が深いようです。(H.11.6)

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