道連れ破産の悲劇不屈の経営者のエッセンス
この「道連れ破産」は実例であるだけに、レポートするのも少々気が重いのだが、他の企業をを道連れに破産するケースや、破産させられるケースも、つきあいが広ければそういう危険にあうことも考えられるし、こういう不況のまっただ中なのであえて紹介することにした。
本人のプライバシー保護のため、業種などはナイショである。彼、Aは数人の従業員を使い、10年以上営業していた。今まで「山あり谷あり」で来たが、バブルの頃はやはり景気は良かった。
しかし、不況になると売上の減少は避けられなかった。売上の回収には時間がかかるが、外注費の支払いは早くする必要があり、資金不足にはたびたび見舞われた。
ある日、つきあいのある業者Bから「連帯保証人になってくれ」と依頼された。借りることが出来たら、いくらか資金を回してくれると言う。
ちょうど資金不足だったこともあり、今までの先方との取引から信頼して良いと思い、引き受けることにした。金額は500万だった。
貸付先がノンバンクCであるのは気になったが、自分もその種の金融機関に手形割引をしてもらったことはある。企業向けならサラ金ほどの事はないだろうと考えた。
借入は成功し、500万の内、100万を回してもらって資金繰りに使った。借りた100万は1ヶ月後に返済した。
しかし、Bは、その後も資金繰りがつかないらしく、Aに金を借りに来ることが多かった。
Aはできれば縁を切りたかったが、Bが「私が不渡りを出すと保証人のあなたに迷惑をかける。必ず何とかするから、今回だけ貸してくれ」と言われると弱かった。
今貸してやらないと、Bは実際に不渡りを出しそうだ。確実に500万の連帯債務を負うことになる。それならば、Bが立ち直る方に賭けて今回だけ貸してやろう、と思った。
こういう事が続き、ずるずるとBへの援助が増えていった。1度に貸した額は少ないのだが、回数が重なると当然、金額も増えた。
ある日、取引先との打ち合わせを終えて玄関を出たら携帯電話のベルが鳴った。相手はノンバンクCだった。「Aさんですか?Bさんは、不渡り出して取引停止ですよ。あなた、保証人になってるでしょう。800万、返して下さい..」
そんなバカな。保証したのは500万の借入だったはずだ。そのうち100万は返したし、その後資金繰りに困ったときにもいくらか貸したのはCの返済に回っているはずだ。それに、いきなり取引停止なんて信じられん!
しかし、それは現実だった。しかも連帯保証人の契約は、根保証人の契約だった。
彼に知らせずにBはその後も借入を増やしていたのだ。
さらに悪い事に、Bは別の保証人を追加して借入限度額を800万に増やしていた。増えた分もAが保証する特約になっていたのかも知れない。しかしきびしい返済の催促はそれらを考える余裕も与えなかった。
Bが追加した保証人には返済能力はなく、取り立てはAに集中した。
他にも、Bはところ嫌わず、借りられそうなところから金を借りまくっていた事がわかった。
Bから委任されたという弁護士から、整理をするのでBに対し直接債務の返済を求めないでくれという通知が来た。Bの立ち回り先を調べて連絡を依頼してみた。
何回かBからの連絡は入った。いわく「親戚から資金を融通しようと○○まで来ましたがだめでした。最後は生命保険金でおわびします」「今、どこどこにいます。生命保険の証書をFAXで送ります。残額は家族にわたしてください」などというものだった。
しかし、それだけだった。一方、彼のところへの取り立ては厳しかった。
自宅はもちろん、仕事場、現場にも来る、「いくらか払ってもらわないと帰れない」とすごむ。ぜんぜん仕事にならない。肝心な収入も減る一方だ。
しょうがなくて、最初に保証をした500万の分だけは払った。
まだ、Bから取り返せるんじゃないかと考えていた。事実,Bは「なんとかする。努力している」と連絡を寄こしていた。
しかし、Bが不渡りを出して6ヶ月後に連絡はとぎれた。
弁護士から新たな通知が届いた。「Bより法的整理を委任されましたが、当職に委任する前に債権を処分していたことがわかったため、やむを得ずBからの委任を辞職することにしましたのでご承知ください」というものだった。要するにBは逃げてしまったのだ。
Bを信頼して貸した金、返した金はすべて無駄になった。借入の金利が高いので、連帯債務はどんどん膨れていく。
取り立てがうるさくて仕事にならない。自分が銀行取引停止になるのも時間の問題だ。
いろいろ考えたが、これしかないと判断して自己破産を申請することにした。
破産するなら、ノンバンクCへ500万返すんじゃなかった、と思った。
もう手持ち金が無いので弁護士には依頼せず、自分で裁判所に行って手続きをした。
手続きをするとすぐに自分の得意先に情報が伝わった。顔を出すと、「Aさん、破産したんですって?」と向こうから言われた。
取り立ては全く来なくなった。
破産後は仕事がじわじわと減った。じり貧状態で生活費の捻出がやっとだ。やはり、破産というのはとてつもない影響がある、と思った。
すべては、あの連帯保証人を引き受けたのが間違いだった。本当に金に困った相手は、こちらが断れない理由を準備して金の無心に来る。
そういうときに断るには、「今金を貸せば、手形を落とす金がなくなる。おまえより先に俺がだめになる」と言うしかなかった。しかし、すべては後の祭りであった。