超スーパーマーケット報告書

先月、「中小企業の情報化」をテーマとしたセミナーに参加したのだが、そこで取り上げられた(株)オオゼキは、年間坪売上げ1800万円の驚異的な食品スーパーマーケットである。(9店舗のチェーン)

これは業界平均の3倍の数字であり、日経流通新聞の坪当たり売上全国ランキングの13位である!
一般にひと月の家賃分の売上げを一日で上げられれば赤字にはならない、と言うが、年間1800万÷12(月)÷28(日)とすると、坪当たり家賃5万4千円払える計算になる。しかも店舗は無借金の自社物件なので、いくら天下の東京都世田谷区と言えど、収益性も抜群であると想像される。

研修は、このスーパーを取材したビデオの視聴、資料の読み込み(日経情報ストラテジー`97.6、日経流通新聞、会社案内、リクルート会社年鑑、その他)の後、佐藤社長の講演を聴くという形で行われた。

1.教材のビデオ(株式会社ブロックス ”マネしない、だから売れる”)と資料を見た感想

このスーパーの最大の特徴はなんといっても、店長を含む現場の社員へのダイナミックな権限委譲である。
なにしろ、仕入れの権限は各売場の部門担当者にあるのだ。ビデオには朝早く市場に仕入れに行く部門担当者の姿が写っていた。

それだけではない。
この店では、お客さんが欲しいと言えば1個でも商品を仕入れる。支店ごとに客層が違うので、それにあわせて置いてある商品がちがう。スーパーとしては異例の正社員比率80%、パート比率20%である。
お客さんは固定客が99%である。

各店各部門のデータ(売上、経費、荒利、営業利益率)は全社員に公開されているので、店の担当者1人ひとりの頭に自分が今どれだけの利益をあげているかわかる。従って、売価の変更も現場の判断で行う。

つまり、担当売場の「経営」を任されているようなものだ。
以前開催した、「経営スーパーセミナー」で招いた先生が、「売場の人がやる気を出す条件」というのをあげてくれたが、「その1」こそ「自分が仕入れてきた商品を自分で売るとき」である。

ちなみに、「その2」以下は「販売することによって自分の評価があがるとき」「販売することで自分の尊敬する人間のプラスになるとき」「販売することが誰かの役に立っていると感じるとき」...である。
とはいうものの社員への権限委譲は簡単にできるものではない。売場を任せ、仕入れの権限まで委譲しようとする社員には、次の条件が必要である。

  • 仕入れの知識とノウハウ
  • 販売の知識とノウハウ
  • 採算についての意識
  • 店舗及び会社についての責任感
  • 世の中の動き、(地域の)お客さんの動き
  • 業界の動きについての知識と探求心

そして、これだけの条件を持った人間ならば、経営者センスを持っている、売場を経営している、と言えるではないか。

そして、経営者センスを持った従業員が多いという事こそ、今後も生き残れる企業の条件であろう。

アメリカの有名な百貨店、ノードストロームのマニアルは、「・・・いついかなる状況下でも、最善とあなたが思う意志決定をし、すばやく実行しなさい」というものだ。

なんと、これ1箇条しかないのだそうだ!「自分で最善と思うことをやりなさい」と言うからには、その人間にかなりの程度の権限を委譲しているということだ。
これがノードストロームでは「全米一の人気を誇る百貨店」と言われる顧客サービスを生んでいる。

これは、このスーパー・オオゼキも同様である。
店長以下のスタッフは、お客さんに「いらっしゃいませ」だけでなく、「おはようございます」「こんにちは」と挨拶している。
地域のお客さんの名前と顔をおぼえ、お客さんの声を聞くようにしている。「こういう商品がほしい・こういう商品はないかしら」「この商品を見つけるのに苦労した」「さっきレジでいやな思いをした」など・・・
自店で品切れになった商品は他の支店からでも取り寄せてお届けする、予約して次回来店時までに取りよせておくなど、ふつうのスーパーに比べて融通が利き、お客さんにとっては大変ありがたい。

事実、見学に行った日に店内放送で「××店長、○○店からお電話です」というのが入っていた。
お客さんからのリクエストで商品を取り寄せることを「客注」と言っているらしい。客注は、1品でも発注される。
すべては、お客様のため、という思想で運営されているようだ。それが、かけ声だけでなく、従業員にゆきわたっているらしい。

どうやって、それを浸透させているのか?それは講演の中である程度明らかにされるが、この点こそが何よりすばらしい。
この雰囲気は、自動車用品販売のオートウェーブで体験したことがある。オートウェーブにしろ、このスーパーにしろ、もし再就職するならぜひ働いてみたいと思わせる企業である。


2.社長講演(もう1名の講師(中小企業診断士の質問に答える形で実施)

■個店主義について (社長は自社の経営方法を「個店主義」と呼んでいる。そういえば、優れた経営者は新しい概念を自分流のネーミングで彩ると言う。)
最初は高級住宅街の松原4丁目に単独店舗を開業したが、下高井戸、豪徳寺の大商店街にはさまれ、苦戦した。しかし、一所懸命やっていたら、なぜかお客さんがいろいろ教えてくれた。そして、教わったとおりにやっていたら、1年でお客さんが店の前に行列を作るようになった。(この辺の中身を質問したかった)

そしたら、おきまりのご近所商店からのイヤガラセがひどくなった。あのころは、自分の子供がかわいそうだった。

しかし、お客様第1主義を侵害される場合は全力で戦った。今では、当時の商店街は無くなってしまった。
個店主義は、正社員比率が高く、給与水準も高い。だからコスト高じゃないの?とみなさんに言われるが、そんなことはない。

大手スーパーでは専門のバイヤーが仕入れをするが、うちでは販売の部門長がする。だからバイヤーの人件費はいらない。しかも、売る人間が仕入れるので、問屋の都合などは関係ないし、リベートに目がくらんで余分に仕入れることもない。売れるか、売れないかで決めざるを得ない。そうしないと販売成績が上がらないからだ。

従って、機会損失(欠品)・不良在庫がものすごく少ない。これは利益率を高めてくれる。

また、個店主義は放任主義ではない。従業員に権限委譲はしているが、情報は役員が掴めるようになっている。だから、部門長の権限を超えるような大きな仕入れなどが必要なときもすばやく手を打っている。

また、当社ではお客さんとのコミュニケーションがあるので、情報はすぐに伝わる。

たとえば、近くで運動会があるとか、町内でハイキングがあるというと、弁当を強化したりできるし、お客さん向け料理を受付て店内加工したり、お客さんの要求にはすぐに応じられるようになっている。

これは、インストア方式・店内加工をやっているからできることで、センターで加工、店は売るだけ、の方式ではできないことだ。
物流も本部を通すと言うことはなく、各店舗に直接配送なのでコストは低くなる。
また、ふつうのチェーンストア経営では自分の部門以外のことは考えないが、うちでは店は一体なので、全部門が良くなるようにと、みんなが考えるようになっている。

■情報化について 私は好奇心旺盛で、新しモノ好きの傾向があるので、商売に活用できる新しいモノはすぐに取り入れたがる。POSシステムも早い時期にそうして取り入れたものだ。

当社ではPOSシステムで単品管理をやっている。これは、売れ筋分析とレジの省力化・迅速化に効果がある。しかし、POSシステムによる売れ筋分析は参考にとどめている。

これは、機械に頼らなくても、当社は売場担当者が仕入れるシステムであり、売場担当者はお客さんとコミュニケーションがあり、生の情報を常に入手しているという強みがあるためである。

なお、POSレジに会員カードを通すとお客さんにポイントがたまり、買い上げ額の1%を月1回現金と交換できる仕組みになっている。~このカードの名前はズバリ、「キャッシュバックカード」である!

~ なんと明確なネーミングではないか。キャッシュバックカード!
~ もっともわかりやすい名前ではないか。
~ 一目瞭然とはこの事だ。

■店長の育成 当社では、「私は店長になりたい!」と手を挙げさせることにしている。会社の方からやれ、とは言わない。

店長は、社長の代わりであるので、押しつけはだめだ。自分の気持ちがそこまで行っている人間でないと。

店長は店一つを任せられる人間、つまり、月25億の売上を任せられる人間だ。

店長にしかできないことが出来るようになるまでは教育する。

部門長のときに店長とはなにかという教育をする。

店長には、
部下の信頼
精神的な力
まわりの人間を引っ張る雰囲気
が必要だ。

■入社2ヶ月の新人に発注をまかせる 人間は任せられると一所懸命にやる。これは人間の根本だ。これは、ほめられるネタを作ってあげているという事でもある。もちろん、新人はミスを犯すが、それは微々たるものだ。人材の育成はもっと大事。

やらせなければ、いつまでもできないが、やらせれば短期間で育成できる。もちろん、ミスをフォローする先輩や上司が見守っている。マン・ツー・マンに近い体制を取っているのも、正社員比率が高いのもこのやり方に合っている。

■パート・アルバイト比率の低さ 当社ではチェッカーひとつひとつが、お客様係りを兼ねている。
お客様への気遣いを重視している。
大手スーパーのパートは、1日2時間のローテーションで、忙しいときだけ来てもらい、それ以外の時間帯は帰っていいよ、というのが本音だろう。

そんな扱いをされる立場のパートさんが、どれだけお客さんの立場に立てるだろうか。
私には疑問だ。
人件費・給料は、従業員の頭数をそろえれば良いというものではない。
人件費がたとえ高くても、それに見合った仕事をして、利益を出せば良いではないか。

■お客さんのわがまま? お客さんが欲しい品を仕入れることが、わがままを聞くことだとは思わない。
客注の商品が残ることは無い。客注をどこまで聞くかは、店ごとに自由にやっており、むずかしいことはない。
仕入れた商品を客注票と一緒に店に出しておくと、依頼したお客さんが買って行ってくださる、それだけのことだ。
「あの店は、希望をかなえてくれる」と思っていただくことが大事だ。

商品管理の極意は、担当する商品を熟知していないと会得できない。POSデータに乗ってこない要素をキャッチしないとだめだ。お祭り、休み、雨、台風、ポイント5倍セール・・・。つまり、熟練しか無い。毎日の訓練、毎日の失敗で勉強していくのだ。

■ビジョン 2年後に店頭公開をする。その後は売上1千億円を目標とする。それには30~40店舗のチェーンにする必要があるだろう。
私は言ったことは必ず実現する。社員にウソはつかない。

■その他 日本とアメリカは土壌が違うが、日本の物価は高すぎる。それを半分にするのは我々の役目だ。

しかし卸をなくせば良い、とは思わない。卸売業をいかにうまく使うかだろう。
今度、経理システムを更新するので、経営情報の公開をさらに進める。その店の人間にその店の損益計算書が理解できることが目標だ。そうなれば、社員が経営に参加できるようになる。

大手企業では、管理上、システム化、マニュアル化を推進するあまり、店長の権限が狭くなっている。その為、販売及び店舗運営において、店長または売場担当者が、やりたくとも出来ないことを沢山作っている。当社では、「店長の目標」を店長自らが設定する。できる目標を設定し、出来るようにしておく。手の届く範囲の目標だ。

ひとつひとつの目標をクリアできるように作ってあげる。目標を達成する楽しさを味わえる。そのための仕組みも作っている。
もし、視察にくるならば、池上店がおすすめである。池上店は当社のこれからの店の姿である。
(平成9年10月)

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