創業・開業のノウハウ

1.創業・開業準備にあたって

[1]開業のむずかしさ
創業支援が国の重点方針になってかなりの数年が経ちました。
「創業塾」もあちこちで開催され、すばらしいビジネスプランを作る研修やプレゼンテーションまでカリキュラムに入っている事が多いようです。
しかし、現場で創業・開業のご相談をしてきた経験から考えると、成功のポイントは、本当のところ他人から教わるものでなく、自分で編み出すものであると言い切れます。他人の話を聞いたり、本を読んだりしても、取捨選択し、自分流に構成するのは自分の力ですから。
そして、それは相談に来る多くの方が既に自分なりの構想を持ち、夢いっぱいにふくらませて実現に努力しようとしているケースがほとんどです。
開業が失敗する原因はそういうものの不備よりも、投資計画・資金計画の甘さが圧倒的に多いようです。つまり、その業種のプロではあっても、経営者のプロにはなっていないためです。

例:一人前の板前さんであるが、資金計画を創った事はない。
一人前の美容師さんであるが、上に同じ。

[2]失敗のパターン
ありがちなパターンを紹介しましょう。
国民生活金融公庫から融資を受けて開業しました。保証人は親に頼みました。意外に簡単に借りられました。(これで安心すると間違い)
彼はその業種のプロですが、内装業者との交渉は初めてです。開業準備の段階で、内装業者に「少々値がはるがこの什器、材質が良いですよ」と勧められると思わず高級な什器や内装を選んでしまいます。
1世1代の勝負になる物件ですから良いものにしたいわけです。いろいろ予想外の出費もあって、初期投資がかさみました。
いざ開業すると売上は予定の半分です。経費は予定よりオーバー、売上は半分、一年目は赤字でした。
資金繰りが苦しくなりました。そうだ、国民生活金融公庫(以下、国金)でまた借入をしよう!しかし、あっさりと断られてしまいました。国金は、借入して間もない人、返済が遅れた人には、ほとんど貸付できないのです。では、他に借入の方法があるか?有力な保証人又は担保価値のある不動産を用意できれば可能です。しかしどちらも無ければ借入は困難です。こまった、こんなはずじゃなかった!

[3]1年目赤字の神話
昔は、開業1年目は赤字でも大丈夫だ、という話をする人が多くいました。高度成長で、今年より来年はもっと良くなる、という状況で基本的に商売は儲かるもので、怖いのは税金だけ、という時期ならそうだったかも知れません。
しかし、いまは低成長です。マイナス成長を脱するか脱しないかという状況では、来年は状況が良くなるとは限りません。赤字になると、金融機関からの借入は少々難しくなります。一方、いくらかでも利益を出して、納税している企業なら借入成功の可能性は高くなります。(必ず借りられるとは限らない)従って、開業当初の目標は、1年目から黒字。少額で良いから利益を出し、納税をすることです。従って、開業に適するのは1月。1月に開業すれば、1年目は12月までの12ヶ月間フルに操業できます。それだけ売上・利益を確保する可能性が高まります。法人なら決算期を自分で決められますから、いつを決算期にするかは、十分考慮する必要があります。法人企業は、一般的に個人企業よりコスト高になります。法人にするメリットは1.取引先の信頼性・必要性。2.節税効果(利益が十分出なければ意味ありません)3.従業員募集の際の信頼性(聞こえがよい)この3つと言っておきましょう。将来大きく伸ばすには法人が良いのですが、開業しても、3年以内に廃業に追い込まれるケースが多いのが実情です。発展の前にサバイバルが優先です。

[4]経営センス
国や県に創業支援というメニューがあっても、融資を例に取れば、実績のない新規開業者が簡単に融資を受けられるという事はありません。ある創業セミナーで、「新規開業者の場合、経営者としての傷(過去に不渡りを出したり、借入返済で延滞をしたこと)が無いから現役の経営者より借りやすい」と言った講師がいて本当に驚きました。金融上の経歴で問題のある企業と比べるのが間違いじゃありませんか?事故歴があれば、借入は非常に困難です。こういうセミナーは経営センスが乏しい(?)
開業にあたって、いろいろな補助金も設けられていますが、予算枠と応募数を比べれば、敷居は非常に高いと考えておくべきです。雇用関係の補助金は比較的利用しやすくなっていますが、従業員を雇用するのが前提なので、最初から従業員を予定している事業でないと利用は難しい事になります。しかし、最初から常勤の従業員を雇うという事はこれも大きなハードルであります。
創業セミナーなどの受講状況を見ると、経営者の経験談より、コンサルタントや研究機関など、先生と呼ばれる講師のカリキュラムに人気があるようです。経験談はある状況にだけ通用するもので、普遍性では先生方の講義が役に立つと考えるのでしょうか。
しかし、経営者向けのセミナーではこれが逆転するケースが多くなります。経営者は実例を重んじます。
理論の完成度が高くても、その理論に実績があるかどうかを重視します。つまり、その理論を適用した結果、効果があったかどうかです。また、経験談を聞いた経営者が、それをそのまま自分の事業に適用しようとはしません。自分なりの解釈・工夫をします。これは、経営者の相手にしている世界が、現実そのものであって、試験の答案用紙ではないからです。現実の世界では似たようなものはいっぱいありますが、まったく同じ状況で同じものが存在する事はありません。かならずその場その場でのアレンジが必要です。経営者はそれを良く知っているという事です。したがってこれから開業しようという方は、このサイトの経営事例、それらからまとめた経営・開業の基本を読んで頂いて、自分なりのアレンジを行い、失敗しない開業をめざし、数年後には大きな成果を得ていただきたいと念願いたします。
(H23年3月)

2.経営の心構え

先輩経営者に聞くと、成功の準備は大事だが、失敗しないための準備はもっと大事だ」と言われます。具体的には、当初の利益が、予想し得る最低しか得られなかったとしても、最低半年、できれば1年持ちこたえられる計画を立てることです。

そのためには、毎月かかる費用・ランニングコストを低くおさえること、店舗や工場の内外装費などの初期費用に投資しすぎないことが大事です。

初期投資は、たとえば店舗の内装を例にすると、自分のイメージには妥協しないでください。最初から妥協すると、「この内装のせいで売れない」などと、責任転嫁する心の元になりかねません。

どの業者が自分のイメージ通りに、しかも安く出来るかを探すのに手抜きをしてはいけません。まして、「長年のつきあいだから、あいつに頼もう」ではいけません。もし自分が失敗しても助けてくれる人は(長年のつきあいを含めて)ほとんどいないと思って下さい。

先輩経営者は言っています。「仕事の完成に念をいれるのに、念を入れすぎるという事は無い」と。

ただ、失敗しない方法を講じるということは、「失敗したらどうしよう」と、くよくよ悩むことではありません。失敗したときの責任の取り方も含め、やるべき事をすべてやった上で、「必ず成功する」と信じ、明るく前向きに取り組むことも成功の条件です。

開業に当たって大事なことに、経営者は、「すべてを自分の責任で行う・結果の責任もすべて自分で負う」という事があります。先ほどの例で、「内装が悪いから売れない」と考えた経営者がいたとします。しかし、それは、内装をする業者を選んだ経営者自身の責任なのです。

現役の経営者でも、責任転嫁をする人がいます。「内装業者が悪かった」「銀行が悪い」「税理士が悪い」「客が悪い」...個々のケースでは相手に責任のあるトラブル、というものも確かにあります。しかし、その場合でも、切り抜ける努力をしなければならないのはその経営者本人なのです。

経営、と言う意味では経営者は責任を逃れることはできません。逃れようとしても、結果は自分に返ってきます。サラリーマン社会であり得る、責任を人に押しつけて自分は安泰、という現象は経営では非常に少ないのです。

親会社のミスで損失が発生したとしても、「あいつらが悪い」と言っているだけでは、損失を取り返せません。自分でカバーしなければならないのです。

3.開業にかかる資金の半分は自己資金で

つまり、自分の預金、退職金、親戚や親兄弟等からの借入などで、開業資金の半分をまかなう事が望ましいと言われています。

実際には50%以下でスタートする人が多いと思います。なるべく50%に近づけましょう。借入金は、長期・低金利のものが望ましいのは当然です。

今は低金利なので、金利の差はあまり大きな影響がありません。しかし、返済期間は大事なポイントです。返済期間が長いほど毎月の支払いが少なくて済みます。

経営を始めると毎月の資金繰り・つまり“毎月の支払い額の大小”はものすごく大事です。この収支が合わないと年間で利益が出るはずの計画であっても途中で行き詰まってしまいます。

●借り入れはどうする?

開業資金を借りるのにおすすめは日本政策金融公庫(以下、日本公庫)です。その名も新規開業ローンという制度があります。また、県の保証協会付制度融資もだいぶ利用されるようになっており、これから開業する人が通常利用できるのはこの2種類でしょう。

日本公庫は一部の条件を満たす人を除き、保証人か不動産担保のどちらかが必要です。保証人はなるべく近くに住んでいて、保証額に見合う収入がある方です。
なお、近くに住んでいるというのは絶対的な条件ではありませんが、あまり遠くの人だと調査に時間がかかったりして有利とは言えません。
ほとんどの業種の開業に使えますが、金融業・投機的事業・一部遊興娯楽業などには使えません。
また飲食業などの場合は申し込み方法が少々異なります。
申し込みは公庫の窓口(主要都市にある)や商工会・商工会議所(ほとんど全国市町村にある)で申込書と開業計画書を入手し、それに記入して送るか届ければ、面接や調査を経て貸し付けるかどうか決定します。申し込みに手数料はかかりません。

県の保証協会付制度融資は、都道府県によって扱いがちがうようですが、埼玉県の場合は商工会・商工会議所で受付をします。申込のノウハウを含めて相談しますので、ぜひご利用下さい。相談・受付など、無料です。

4.一般的な開業資金借り入れのポイント

貸付決定にこぎつけるには、開業の計画・借入金の返済計画がしっかりしているかどうかが重要です。開業計画は、収支(収入と支出・入金と出金)の予想を立て、その根拠を出来るだけ明らかに出来ることが必要です。

売上の根拠は、小売業などの場合、同業種・同規模の店舗の実績が参考になります。工場などの場合は、得意先からの受注見通しなどです。

これらの裏付けになる資料は、統計資料などの一般的なものよりも、開業する人の勤務経験の中から得た実際の数字(実例)のほうが説得力がありますが、より広い視野に立った業界の見通しを持っていることも必要です。なお、不況業種といわれている業界のスキマ的な分野を狙う場合、成長産業に突撃するより、案外うまく行く場合があります。成長分野は有力企業が参入して競争が激しいのに対し、スキマ分野や小規模・中小企業に向いている、という事のようです。

普通は自分が勤務していた企業・業種・仕事に関係のある業種を始める人が多く、この場合は新規開業と言っても、その業界については普通の人より良く知っているはずですから、経験が説得力になるわけです。

借り入れには通常第3者の連帯保証人が必要です。(一定の条件を満たせば、不要。)なるべく近くに住んでいて、借入額に見合う収入がある方です。不動産担保については、借入額に見合う余力が必要です。不動産担保をつければ、第3者保証人は不要になる場合があります。

●勤務経験のない業種などを開業する場合のポイント

勤務したことのない業種で開業する場合でも、フランチャイズに加盟するとか、誰か経験者に指導してもらうという事ならば、その指導してくれる人に実績があれば、説得力がありますが、そうではなくて、全く新しく自分のアイデアで開業する場合は自分の計画だけが頼りなので、計画づくりは特に重要です。

また、勤務経験がある業種・業態を開業するにしても、その業種・業態が世間一般にあまりなじみの無いものである場合、もしくは、今まで世の中に存在しなかった業種業態を開業する、という場合は、正直なところ、あまりウケが良くありません。前例が無いと審査もしにくい、ということでしょう。従って開業する事業がどういうものなのか、相手に良く理解してもらう必要があります。

その場合のポイントは、その商売がお客さんにどういうメリットをあたえるのか、利益を出すポイントは何か、将来性はどうなのか、という事です。

将来性が無いものを始めようという事は無いでしょうから、世の中の変化や業界の動きを広い視野で見て、この仕事はこういうわけで有望だ、という見通しを相手にわかりやすく伝える事がポイントです。

●開業資金計画の例

(1)資金調達計画

資金使途 金額 資金調達 金額
店舗賃貸保証金 100万 自己資金 500万
店舗改装費 300万 借入金 500万
商品仕入 300万  
広告宣伝費 50万  
運転資金 250万  
合計 1,000万 合計 1,000万

従業員なし、事業主と家族だけで開業する例である。 運転資金とは、売上が軌道に乗るまでの家賃や商品の補充、水道光熱費などの支払い用資金である。

(2)収支計画(年 間・当初1年)

モノ作りの原点は技能の蓄積

支出   収入  
仕入 2,000万 売上 2,800万
諸経費 200万 受取利息 2万
借入金返済 56万 雑収入 0万
支払利息 12万    
税金 70万    
合計 2,338万 合計 2,802万

収入合計と支出合計の差額464万が1年間の生活費であり、来期以降の投資の元手になる。あまり楽とは言えない
借入金返済は、5年返済、据え置き(*)6ヶ月、54回払いとして計算した。
500万÷54(回)×6(6ヶ月)=55.5555...万円。
尚、2年目からは据え置きが終わっているので、
500万÷54(回)×12(12ヶ月)=111.1111...万円になる。
(*)据え置きとは、その期間だけは元金の支払いをせず、利子のみ支払うこと。認めてもらえないケースも多々あります。

簡単すぎる例ですが、ご自分の計画を元に、精密なアレンジを加えてください。「実際は計画どおりに行かない」・・・とは言っても、しっかりした計画は立てておいた方がうまく行っているようです。

開業にあたり、経営の勉強、経理の勉強、管理の勉強や経験を十分しているでしょうか。「その道の専門家」の経験だけで経営の全ての要素を満たせるでしょう か?こんなに簡単な資金計画でも、きちんと立てられるでしょうか?立てた計画を実現するために、プロの大家さん、内装業者、仕入先と十分渡り合えるでしょ うか?彼らは必ずしも創業者を応援するとは限りません。「この店はいつまで持つかなあ」と思っているかも知れません。最低でも、このような資金計画はじっくり、じっくり練り上げてください。

開業計画・重要ポイント

  • 自分が一番売りたい(作りたい・サービスしたい)商品は何か
  • 客層・どういうお客さんを見込んでいるか
  • その客層・サービスの将来性はどうか
  • お客さんを得るためのポイントはなにか <(それを無くしたら売れないという条件)
  • 競合する相手との相違・当社が選ばれる条件は何か
  • 今後もそれらの条件を維持できるか。その方法は何か
  • 家族・関係者の協力を得られ、もし失敗しても自分で責任をとる覚悟があるか

国民生活金融公庫 新規開業貸付のご案内

限度額 7,200万 円以内。但し運転資金については4,800万円以内
返済期間 15年以内 (設備資金)
7年以内(運転資金)
返済方法 月払い。元金 均等・元利均等・ステップ返済を選べる
その他 不動産担保を 設定する場合、登録免許税不要
設備資金の場合、設備の見積書が必要
説明 限度額は最高限度です。融資金額が大きくなると不動産担保が必要になることが多いです。申し込み後、審査を経て貸付の可否が決定します。

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