経営と開業の事例 #25
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経営改善事例・営業と製造の連携、受注・購買の
見直しで劇的にキャッシュフロー改善


 1.業績回復の事例

 平成2年にバブルが崩壊してから12年、あまりにも不況が長いので、最近は利益を出している企業ならとりあえず「立派!」と思えるほどである。中には、銀行取引の関係でむりやり利益を出そうとして苦労した決算書もたまに見受けられる。減価償却しないなどは当たり前。在庫が不自然に増えていたり、流動資産の中に内容のはっきりしない、金額の大きな科目があったりする。

 しかし、今年度になってからは正味の決算内容が良くなってきた企業がぼちぼち見受けられるようになってきた。

 それらは、業種・業態には関係なく「経営の仕方」が結果を生んでいるようである。

 つまり、同じような業種でも倒産したり、縮小する企業がある一方で、増益をつづける企業があるということだ。

 利益をあげている企業に聞いてみると、世間で言われているように勝ち組と負け組という事らしい。倒産・廃業で競争相手が減っているという事である。相変わらず競争は厳しいのだが、やり方によっては仕事をとる、利益を上げる方法がある、と言う。

 今回は、県内某商工会での事例として1社を選んだ。この企業は金属加工を中心とする製造業で、従業員16名、年間売上が3億弱、2年〜3年前にかけて合計3300万の不渡り手形を受け、資金繰り・利益ともに大打撃を受けてしまった。

 通常、経常利益が売上の5%あれば良い方と言われるが、そうだとしても3億の5%では1500万である。2年分以上の利益が吹き飛んでしまったわけだ。その後長く苦しい時期が続き、途中で借入の返済が出来なくなって条件変更したり、サブ取引銀行の預金を全部解約したり、傍目には倒産寸前の状況まで行ってしまった。しかし、平成14年の決算では急激に利益・資金繰りが回復している。結果、在庫の縮小、支払手形・借入金の圧縮など、財務内容も改善された。地獄から天国(?)へ、というわけで、かなり劇的な改善事例であり、決算状況の概要を含めてご紹介することにした。

 

2.不況と不渡り手形の洗礼

 当社は、長年金属加工を営んできたが、バブル崩壊後は、売上の停滞、値引き競争による利益率低下、従業員の高齢化と人件費比率の増大により、なかなか利益を出しにくい体質になっていった。また、受注確保のために大物の加工を可能にしたいということから、工場の拡張をしたため、土地購入・工場増築・そのための借入を行い、負債が増加・返済のために資金繰りは余裕が無くなって来ていた。

 これらの課題をどうしようかと考えている最中に取引先が倒産し、1800万の不渡りを受けてしまった。当面の資金繰りは「中小企業倒産防止共済」に加入していたため、被害の全額を無担保・無保証人で借入する事ができた。これに加入していなければ、この時点で自社も不渡り倒産していたかも知れない。

 この融資のおかげでその場はしのぐことができた。しかし、中小企業倒産防止共済の返済条件は5年間である。利益が1800万無くなって、借入が1800万増えたのだから大変なことである。悪いことは続いてやってくるもので、翌年も1500万の不渡りを受けてしまった。これも「中小企業倒産防止共済」で全額を借りることが出来たが、またも借金が増えたわけである。

 通常、借入金の限度は年間売上の3ヶ月分とか4ヶ月分と言われている。この水準を超えると、その企業は危険な状態にある、という目安である。

 中小企業の場合、実際にはもっともっと借入をしている企業はあるが、いちおうこの基準で考えてみると、この企業は年間売上が3億弱なので借入限度は7000万くらいである。もともと資金繰りでほどほどの借入金があったが、そこへ工場拡張で3000万の借金をした。(社長個人も別にしている)さらに倒産防止共済の3300万の借入が発生した。この借入は損失の穴埋めで、まったく利益に結びつかない性質のものである。

 つまり、この企業は大変危険な状況になってしまった、倒産しても不思議でない、という状況である。

 

 3.商工会と相談した生き残り策

 中小企業の経営はオモテの数字どおりには行かない。この企業も同じで、社長が個人の資産を投入して資金繰りをしたり、やむを得ず給料カットしたりして生き延びる事ができた。

 しかし、それらは一時的な効果しかない。

 商工会やコンサルタントに相談したところ、一般論としては、手形取引の削減と取引先の分散化が必要であること、当社の問題点としては営業部門と製造部門の連絡が悪いのではないかと指摘された。実際の数字・特に変動費(材料費+外注費)に見合う受注単価を確保するようアドバイスされた。ここを改善するには、営業(受注単価)と製造(外注・仕入管理)の連携が必要であるが、第3者から見るとそれがうまく行っていないように見えるらしい。

 それらの改善は、いままでの仕事のやり方・考え方を部分的に変えなければならない作業なので、ある意味難しく、手間のかかる作業になりそうであった。今まで相手に任せていた部分に口出しをする必要があるので、下手をすれば社内の雰囲気が悪くなってしまうかも知れない。

 4.原因の分析

 しかし社長の個人資産も尽きてきたし、金融機関はなかなか融資をしてくれない時期になっていた。他に方法がないので、この問題を解決するため、社長、営業、工場長の3人でミーティングをすることにした。また、それに先立ち、社長の役員報酬を大幅減額した。しかし工場長と営業は減額を見送り、こう宣言した。「我が社は危機的な状況にある。現在の利益では借入の返済や手形の決済が出来なくなる。今までは社長の個人資産で補ってきたが、まもなく社長個人の資金も尽きてしまう。これは社長の責任なので社長の役員報酬は大幅にカットした。しかし営業部長と工場長の給料は据え置いた。君たちの協力が必要だからだ。これから利益を出すために3人でミーティングをしてなんとかしたい。協力していただきたい。」

 ミーティングの内容は、納品した仕事一つ一つについて、どのくらいの荒利を得たか、から始めた。コンサルタントの指導では、当社の場合、荒利が出るか出ないかが受注するかしないかのポイントで、荒利の利幅は将来の課題である、とのことだった。

 その結果、値引き競争の中で仕事を取るために、荒利が出ない単価で受注しているケースがかなりあることがわかった。(売上<変動費)つまり、仕入れ値以下で販売したのと同じことである。

 なぜ、そのような事が起きているのか、3人でミーティングを続けた結果、下記の問題が明らかになった。

1.            営業。仕事がドンドン来ていた頃の感覚で今でも仕事を取りたい。仕事を取ってくるのが自分の役割である。バブル以前は仕事の量さえ取れば、利益は後からついて来ていた。したがって今でも仕事を取りさえすれば何とかなるだろう、という感覚があって利益を軽視して取ってしまった。しかし今の不況では利益を考えていたら仕事は十分とれない。利益を重視したら仕事がヒマになる。それでも良いのだろうか。

2.            製造。納期に間に合わせることが最大の関心になり、忙しかった頃の感覚で、出さなくても良い仕事を外注先に出したり、まだ必要ない材料を先に購入して在庫として置いたりした。なまじ仕事が少なくなってくると不安感が強まり、なにか動いてみたくなる。その結果、無駄が増えたのかも知れない。受注単価をしっかり頭に入れておけば外注を減らして内作を増やす工夫をしたのだが。しかし、工場ががらんとしたり、休憩が増えると雰囲気が悪くなる。それでも良いのだろうか。

 

 つまり、仕事が減る事への不安感から営業は利益を軽視して仕事を取る。製造も来た仕事はとにかく早く仕上げて納品したい。そのためには外注も使うし、「待ち」時間を減らしたいから材料は余分に手元に置いておきたい。仕事が減って、する事が無くなると何かやらなくては、と思う。そのために変動費が減らず、利益率が下がってしまっていた。

 要するに営業も製造も熱心に仕事をしたのだが、結果的に利益を下げる共犯になっていたのだ。

 

5.再生のための方策

 以上の検討結果に基づいて、社長は以下の方針を説明した。

 <営業>

 変動費を賄えない単価の仕事は受けない。言い換えると、製造と協議して、わずかでも良いから荒利(売上―変動費)をとれる見積もりを出す。通常より荒利が高くても一回限りのスポット受注は控える。逆に継続の見込みがあれば荒利が低くても優先して受注する。以上の方針に従ったために、もし受注を逃しても社長は一切文句を言わない。受注が減って浮いた時間は新規のお客さんの開拓に回ってもらう。新規顧客の受注単価の基準も他と同様、「わずかでも荒利が取れる」事とする。

 <製造>

 納期厳守ももちろんだが、荒利の確保を同じ重要度として位置づける。見積もりの際に営業と打ち合わせた変動費の範囲内で仕上げること・可能ならさらに下げることを方針とする。

 <ミーティングの実施>

 以上の方針を実行するため、最低毎週1回ミーティングをすることとなった。実際には、受注の打ち合わせとして当初は毎日のようにミーティングを行った。やがて、お互いの事情が飲み込めてくると週1回で済むようになっていった。

 

6.改善策の実施

  営業・製造以外にも、外注管理、材料購買の問題点も浮かんできたので、社長自ら外注・材料卸商と下記のような交渉を行った。

 外注先

 従来、外注先が不良を出しても、やり直しをさせるだけにしていたが、得意先から値引きなどの要求が来るので、その分を率に応じて外注先にも持ってもらう事にした。

 仕入先

 今までは1社専属であった。担保を入れ、手形で仕入れていたが、取引先の分散と手形取引の削減は社長も進めたいと思っていたし、不況で購買先に困ることはない。そこで、交渉の結果、今の仕入先は解約、担保もはずした。他の材料卸商を探して交渉し、最初は半金半手(現金50%、手形50%)で取引を開始したが、そのうち他の卸商が訪ねてきて、単価競争が始まった。幸い、単価は低いが仕事の量はあったので、卸商から見ると当社はおいしい取引先に見えたらしい。こっちから要求しなくても仕入れ単価はだいぶ下がっていった。

 受注の方は、無理に安い単価では見積しなくしたため減っていった。その間は予定どおり営業に新規開拓を進めさせた。新規でとれる仕事は小さいものが多く、一時は売上がだいぶ下がった。しかし、単価の関係で一度離れた得意先は、あちこちに仕事を出した後で当社に戻ってくることが多かった。納期や仕上げなどがうまくいかないことが多いようであった。

 新規開拓の効果も出てきた。不況のため倒産が多く、少量でも一度受注すると、そこの主力下請けが倒産した場合に、「取引実績がある」という事で引き合いが来るのだ。その場合、仕事を取るのは全くの新規に比べるとだいぶやりやすかった。今の不況は零細企業が先に倒産するとは限らない。川上に近い企業が倒産するケースがけっこうある。そのため、元が倒産すると従来の順序や規模に関係なく仕事がとれるチャンスがある。新規開拓でいろいろな所に顔を出した結果、そういうチャンスをつかみやすくなっていった。

 こうして、受注も一時はへこんだが、次第に回復していった。単価は相変わらず低いのだが、損する仕事は無くなった。先の事情で材料単価が下がったので利益率は以前よりだいぶ良くなった。また製造現場も腹が据わって、外注に出すかどうか事前に検討し、暇な状態になっても、合理化の話し合いや、新人の教育など前向きな時間の使い方をするようになった。結果、外注費も金額的に下げることが出来、さらに利益率が上がっていった。

 

7.仕上げ・資金繰り改善

 こうして利益が上がり、キャッシュフローも改善された。しかし銀行への返済を条件変更していたため、それを元に戻すため利益で得られた資金は返済に回さざるを得ず、手元に残らない。相変わらず資金繰りは苦しかった。決算を目前に控え、ふたたび社長は商工会に相談をした。

 あまり「資金繰り」「資金繰り」と言いたくないので本音は資金繰りだが今度は「製造工程についてアドバイスしてくれ」と申し入れた。

 商工会は製造工程のアドバイスという事だったので前回とはちがうコンサルタントを連れてきた。そのコンサルタントは工場内を見、前々期決算と前期決算(試算表)を見て言った。「いろいろ問題点はありますが、この数字が正しければ御社は良い会社です。これだけ財務を改善したのは並大抵のことではなかったでしょう。工場内の改善はいろいろ余地がありますが、急いでお金をかけてやるほどではないし、簡単には出来ないでしょう。当面は必要ないと思います。長期的な課題としてお考え下さい。」と言って、将来的な改良点をいくつか指摘した。

 社長は、内心、ミーティングで行った改善が評価されたと感じたが、思わず「そんなことはない。うちは資金繰りが苦しいんだ」とつい本音を漏らしてしまった。先日も取引金融機関に保証協会付き融資を断られたのである。しかし、コンサルタントは、「この内容なら資金繰りも解決つくはずだ」と言い、商工会側も「この内容なら運転資金を借入出来ると思う。金融機関に新しい決算を見せましょう。」と言うので正式に融資を申し込むことにした。その際、利益を出すに至った改善の経過と方法を詳しく説明したのは言うまでもない。その結果、最低限度の金額であったが、新規融資をうける事が出来、今までの改善の効果と相まって資金繰りを付けていくめどが立った。

 

 このとき出した2期分の決算科目の抜粋は次の通りである。

 

科目 前々期 前期
売上高 28000万 27000万
*売上原価 21000万 20000万
(材料費+外注費) 16300万 13400万
減価償却費 ゼロ 700万
手形売却損 ゼロ 120万
営業利益 1300万 1300万
税引前利益 −420万 988万
     
売掛債権 4400万 4300万
資産合計 14400万 12600万
     
借入金 9100万 7100万
自己資本 −3300万 −2200万

この売上原価は製造部門の人件費や経費を含む原価であって、変動費(材料費+外注費)とは異なります。

 

8.改善の背景

この事例で残る問題は、なぜ、こういう改善ができたのか、という点であろう。

 技術があった、人材があった、運が良かった、いろいろな見方が可能だが、この社長の過去の経験とそれに基づく覚悟の決め方が大きかったように思える。

 この社長は独立開業した当時は、機械のこと以外はまったくの素人で手形をもらっても割引の仕方も知らなかった。人の紹介で個人割引業者に預けて必要なときに換金したりしていた。持ち前の努力で業績は伸びていったが、あるとき、詐欺にあって割り引いた手形が無効だったため不渡りになってしまった。

 そして、おっかない人たちに追われる身となり、金融の知識が無かったせいもあってどうして良いかわからず、何もかも捨てて夜逃げしたことがあった。

 その後も人を信用してだまされたりした事は何度もあった。

 その頃の事を考えれば、どんな状況になってもやりくりできるという信念があった。

 ために、営業に対し、「もし受注が減っても一切文句は言わない。社長である俺の責任だ」と言い切れたのであろう。

 社長本人が「どんな状況でも乗り切れる」と信じていればその説得力は強くなる。

 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」というが、今の大不況では不渡り倒産の危機に近い状態の企業でも、受注減を覚悟の上で改革をしなければ生き残れないのであろうか。もっとも、中小企業の社長さんたちは恐らくこう言うだろう「当たり前じゃないか!」と。(2002/8月)


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