2.製本業・営業歴76年!

不況に強いが、利幅が低く、協力企業のネットワークが不可欠な業界

1.業界の概要
製本業はいわば不況型産業です。好況で必ず売上が伸びるわけでは無いが、不況になっても需要があまり減らないので比較的不況に強いと言われます。
また、受注型産業でもあります。注文を受けてから仕事をします。品物は作ったけれど、お客さんが来て下さらない、という業態とは違います。
過剰在庫は出来無いし、相手が倒産でもしない限りは、売上代金の取りっぱぐれも少ない業界です。要するに地道にやれば堅実な業種である、と、私は思っています。
欠点は、利幅が少ないこと、不良を出した時のリスクが大きいこと、技術が必要なこと、広めの空間が必要な事、機械設備が高額な事。
製本は機械の値段が高いので、設備投資額は大きくなります。しかし、頭はそんなに使わないというか、高度な頭脳が必要というほどの仕事ではありません。
また、機械無しで手作業でできる種類の仕事もあるので、昔はそういう業態で起業し、稼いでから機械を買う、というやり方をする人も多かったんです。しかし、今ではこの業界で起業する人はだいぶ減りました。
当社は製本専業です。印刷や下加工はやっていません。製本業は寒いときが忙しく、暑い時はヒマです。よく「金魚売りが来るとひまだなあ」と言ったものです。学校の教科書、書籍が中心という事が関係しているのだと思います。
昔は労働時間の考え方も違ったので、忙しい時期は夜中まで仕事をしていれば、そのたくわえでヒマな時期を乗り越えられる、そんな感じでした。
今は週の労働時間も制限がありますし、年間通してできるだけ均一に仕事をしなければなりません。そのためには、自社の操業限度を100とすると120%~130%の受注を確保する必要があります。
100を超えた分は残業や外注で対応します。協力企業とお互いに外注に出したり受けたりして、年間通して損益分岐点を超えるように努力します。操業限度100の仕事しか無い場合は、閑散期に稼働率が下がって目標売上を下回ります。また、突発的な依頼が来たり、同時期に受注が重複してしまって仕事をお断りするなどの「ロス」が必ずありますので、100の仕事をいただくだけでは損益分岐点を超えられません。

2.技術と協力企業
協力企業(外注先、同業者)とのお付き合いは大事です。タイミング良く仕事をやって貰えないと、仕事が回りません。また、外注さんが出した不良でも、その外注先を選んだ当社の責任は免れません。この業界では、外注先とは仲間であり、運命共同体でもあります。当社も、折り加工は特定の折業者さんに依頼しています。
120%~130%の仕事を効率よく行うには、ただ残業したり、外注に出せば良い、というものではありません。簡単な製本もあれば複雑な工程の製本もあります。それらを納期までに仕上げるには、工程管理やパーツつくりが重要です。それぞれの部門に専門職が必要なのです。そのあたりは「技術」の分野になります。
製本業界のもうひとつの問題は、元々低い利幅が、さらに下がる傾向にあることです。そのため、固定費を下げようとして外国人研修生やニート、アルバイトを活用しようとする企業もあります。
私自身は、現代は機械化の時代なので24時間機械を止めないことが利益につながるだろうと考えています。

3.営業活動
昔は製本に営業は必要ありませんでした。時期になると、出版社の方から仕事を頼みにくる、そういう感じです。今は違います。毎日お得意さんに顔を出して、御用聞きです。熱意と誠意をお見せして元気な声で「何か仕事はございませんかー?」ですよ。
当社の場合は、出版社との直接取引きが多く、お互いに仕事がやりやすいというせいもあって、営業は1名しかいません。毎年、ほぼ自動的に発注してくる出版社が多いので営業はあまり要らないんです。
当社の取引先は東京の会社が多いです。地方にも教科書メーカー(出版社)はありますが、ロットは小さめなのであまり取引しません。
今まで、製本業界では、行儀の悪い企業(他人の仕事を奪うとか)は、あまり多くありませんでした。この業界は意外に世間が狭く、社員が辞めたりしても「うちに居た営業が、あそこの製本屋にいるらしい」とか、すぐ噂になります。
当社にも従業員として売り込んでくる「経験者」がいますが、前職の会社に「この人どうなの?」とか聞いたり、逆のケースで聞かれたりもします。

4.人材について
当社は、人材は自社育成の方針です。経験者よりはるかに良いと思っています。育成には時間がかかりますが、それは苦労とは思いません。
受注は、品質・納期・価格次第、というところがあり、それが製本業の実力でしょう。
当社では、1年1年が新人・新規参入と同じ、と思っています。商売は初心に戻る、が大事。お得意さんに気に入られないとだめです。いつも誠意を持ってやります。
今では機械が進歩して、いろいろなエラーチェック機能があります。それをきちんと使えば、あまり大きな問題は起こらない。だからパートさんやフリーターさんだっていろいろな機械を使えるようになりました。

5.当社の財産
業績の浮き沈みはありますが、業界の中で信頼関係を作っていかないと生き残れません。自分のやりたい事だけやって、自分の都合ばかり考えていたら信頼は作れません。
長年、顧客に尽くして、迷惑をかけずに来たのが当社の財産です。製本は編集・印刷・断裁と流れてきた書籍の最後のまとめです。
製本業に納品される「物」は、印刷し、紙を切り、折るなどした各工程の製造経費が込められた「半製品」です。当社がミスをすれば、今までの工程がすべて無駄になってしまいます。
完成品出荷の過程に近いので、物流にも迷惑を掛けます。損害は大きなものになります。それだけに、周りの皆さんに喜ばれる仕事をしなければなりません。とは言っても、個人的には、そんなに難しい仕事ではないと思っています。
身近な方針としては、嫌だと思う事は進んで引き受けろ。我慢してやればそれが生きる。「自分の不都合は相手の好都合だ」と言っています。
たとえば、印刷が遅れた物は、製本(当社)で取り返してやろう!自分で背負うんだ!ということです。
困った時も企業には必ず生きる道はあると思います。そのためには、普段から真剣に人と付き合うことです。そして相手の立場を良くしてあげないと。特にきびしい時代はそうです。仲間内でも「あいつは..」といわれる人がいます。協力し合う仲間は本当に財産で、当社も協力企業とは現場レベル、管理職レベルでも情報交換しています。
私は、自分も会社も7割以上は、周囲に支えられていると思います。「自助努力」はいい言葉ですが、自分だけで成り立っている、という企業はそう多くは無いのでは。やはり、よく言われるように大きくなるほど謙虚にならなければ。

6.これから開業する人へのアドバイス
商売は「人のため」という理念を持って欲しい。人間は生まれたときはハダカです。食べる、着る、学ぶ、すべて人様のおせわで育って行きます。一人前になり、今度は恩返しをするのが職業というものでしょう。それを全うして、次に生まれてくる人に与えてあげる、これが職業理念だと思います。そういう感謝の気持ちを持って経営してもらいたいと思いますし、一方、開業すると社長としての悩みはとても大きく、夜中に目覚めて眠れないような事は年に何回もあります。そういう覚悟も必要だと思います。

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